会計事務所の先生に、相談にいったけんぞうとのぶこは事業承継についていくつかの方法を教えてもらいました。事業承継の方法は理解したものの、複数の選択肢がある中でけんぞうとのぶこは悩んでしまいます。
さて、けんぞうとのぶこはどうするのか?
エピソード①複数の選択肢
事業承継の方法
事業承継は、主に親族内承継、親族外承継に分かれます。
親族内承継
親族内承継は、子供、家族、親戚等血縁関係にある人物に承継することを指します。一昔前までは、こちらが一般的な話で、家業を継ぐことは生まれたときから定められたこと、嫁に入れば跡継ぎとなる子を産むことが決められている等まるで時代劇のような世界でした。ここ最近は、こういった風習も大きく変わって、必ずしも親族内承継だけではなくなってきています。
第2-1-5図は、引退した経営者と、事業を引き継いだ後継者との関係を示しています。親族内承継が過半を占めており、その大半は子供(男性)への承継である。他方、親族外の承継も3割を超え、事業承継の有力な選択肢になっている。
参考:2019年版中小企業白書
室長コメント
室長がこれまで相談を受けてきた経営者には優秀なご子息や親戚がいることが多いも関わらず、第三者への譲渡を検討される方が多かったです。その主な理由は、都内で活躍している、役職についており簡単に退職できない、年齢的にも家族や子供がいる、自分と同じような苦労をさせたくないからです。そのため、親族内承継しない判断をする方が多くなり、昨今のM&Aブームの原点になっていると思います。
親族内承継はこんな人におすすめ
- 承継者本人が承継を望んでいる
- 承継者が承継する事業や経営について準備をしている
- 承継者を受け入れる組織体制、幹部への説明等事前に出来ている
- B/S、P/Lについて、事業活動に必要のない項目等整理出来ている
- 現経営者の属人的な部分を標準化出来ている
親族外承継
親族外承継は、血縁者を除く第三者への譲渡を指します。第三者といっても、役員や従業員が承継するといった割と近い存在へ承継する、まったくの他人でありこれまで縁がなかった存在へ承継するという2つのパターンが存在し、さらに承継方法としてぞれぞれ内部昇格・MBO、M&A・外部採用の2パターンに分けることができます。
■役員・従業員 | 株式 | 運転資金 | 借入金 | 従業員 |
内部昇格 | × | × | × | 〇 |
MBO | ◎ | △ | △ | 〇 |
■第三者 | 株式 | 運転資金 | 借入金 | 従業員 |
M&A | ◎ | ◎ | ◎ | △ |
外部採用 | × | × | × | △ |
内部昇格
役員・従業員を代表取締役へ昇格させる方法です。一番簡単な方法ではありますが、あくまで表面的な事業承継の解決手段となります。これを実行したからといって、実質的な経営権等が承継できていないため、事業承継が完了したとは言えない方法です。
ポイント
■株式
現経営者が株式保有したままで経営権は承継できていない。将来、相続等で問題が発生する可能性あり。
■運転資金
一般の社員として働いてきているため、会社の運転資金を賄えるだけの資金があるとは考えにくい。
■借入金
現経営者の金融機関の連帯保証が残った状態。会社の状況によっては大きなリスクは残ったままとなる。
■従業員
従業員から認められている人材を選択すれば、従業員からの抵抗は少なく、受け入れやすい。
内部昇格はこんな方におすすめ
- 承継者が本当に適任かを見極める期間を設けたい方
- 将来、株式譲渡や連帯保証を外すことについて計画が出来ている方
MBO(Management Buyout)
現経営陣や役員が株式を買い取る方法です。米国で活用されていた手法で1990代後半から日本でも活用されるようになり、主に企業が合理化を進める上で事業再編、組織再編の一手法として使用されています。株式を買い取るために、自己資金以外にPE(プライベートエクイティファンド)の協力を得たり、現在の企業価値を活用したLBO(レバレッジド・バイアウト)を使用するケースが多い。
ポイント
■株式
現経営者から株式が移動するために経営権も移動し特に問題がない
■運転資金
PEや金融機関からの協力を得ている場合、その点も考慮されている可能性が高い
■借入金
現経営者の金融機関の連帯保証を外すため特に問題がない
■従業員
現経営陣や役員であるため、従業員にとってはとても理解しやすい
MBOはこんな方におすすめ
- 現経営陣もしくは役員の中で承継したいもしくはできる人財がいる方
- PEや金融機関の協力を得ることが出来る方
M&A(Mergers and Acquisitions)
M&Aとは、企業の経営権や事業を譲渡することを指します。具体的には、株式譲渡、事業譲渡、新設合併、吸収合併、資本業務提携等様々な方法があります。上記の内部昇格やMBOについても、M&Aの定義に含める方もいます。当サイトでは、分かりやすくするためにM&Aは第三者へ何らかの方法で経営権や事業を譲渡することと定義します。
ポイント
■株式
現経営者から株式が移動するため特に問題がない
■運転資金
一般的に資金に余裕がある会社が譲受けするために特に問題がない
■借入金
現経営者の金融機関の連帯保証が外すため特に問題がない
■従業員
競業会社、異業種の会社、ファンド等従業員の理解を得られにくいケースもある
M&Aはこんな方におすすめ
- 承継できる人財が親族及び社内にいない方
- 経営者としては難しくても、社内に事業継続を任せられる人財がいる方
- これまでの実績を正しく評価してもらい、株式や事業を売却されたい方
- 名実ともに引退を決断している方
室長コメント
中小企業においては、次の世代に同じ苦労を掛けさせたくない、経営できる人財が社内にいない等の理由からM&Aを選択される方が増えています
外部採用
経営者を外部から採用する方法です。最近では、人材関連の会社、経営コンサルタント会社、地方自治体にて経営の専門家、Uターン人財の紹介も多くなっています。但し、見知らぬ人財に経営を任せるというのは抵抗があるでしょうし、株式や借入金の連帯保証が外れるわけでもないため、現実的にはあまりお勧めできません。
ポイント
■株式
現経営者が株式保有したままで経営権は承継できていない。将来、相続等で問題が発生する可能性あり。
■運転資金
会社の運転資金を賄えるだけの資金があるとは考えにくい。
■借入金
現経営者の金融機関の連帯保証が残った状態。会社の状況によっては大きなリスクは残ったままとなる。
■従業員
従業員にとっては見知らぬ人財であるため、抵抗は大きく受け入れられるまで時間が掛かる
外部採用はこんな方におすすめ
- M&A、MBO、内部昇格等の方法ができない方
- 株式を譲りたくない方
- 将来、株式譲渡や連帯保証を外すことについて計画が出来ている方
エピソード②税理士のススメ
ということで、けんぞう社長とのぶこ専務は会計事務所の先から紹介されたM&A会社へ相談に行くことになりました。さて、M&A会社は2人が納得できる提案をしてくれるのでしょうか?