つなぐくんの説明を受けて、M&Aのプロセスについては理解ができたけんぞうとのぶこ。さっそく、次のステップになる秘密保持契約書の手続きをすることになりました。どうして、とりあえず正式契約を締結しないのでしょうか。
エピソード①秘密保持契約書締結
秘密保持契約書の意義
アドバイザリー契約を締結する前に、秘密保持契約書(NDA)を締結して、M&Aに対して方向性を決めていくことはとても重要です。アドバイザリー契約締結後に企業価値評価を行い、想定していたよりも評価が低かったり、考えていた譲渡方法と異なるケースがあります。そうなると、それまでの時間がもったいないですし、その時点でアドバイザーに対して不信感が出て来ます。アドバイザーとの信頼関係がないと、M&Aは成功することはできません。そのためにも、事前に方向性を決めていくうえでアドバイザリー契約締結前の秘密保持契約書締結はとても重要になります。もちろん、情報開示するにあたり情報を漏洩しない約束であり、その情報を保証するために締結することは前提となります。
室長コメント
室長がこれまでセカンドオピニオンとして相談を受けた企業様の中には、秘密保持契約を締結せずに情報開示をされている方、アドバイザーと方向性を決めずにとりあえずアドバイザリー契約締結をされる方等M&Aを知らないがために、大きなリスクを取られている方がたくさんいました。このリスクが、大きな問題や機会損失にならないようにアドバイザーと十分に話し合い方向性を決めるようにしてください。
秘密保持契約書の内容
秘密保持契約書は、一般的な例として、第1条(秘密情報)、第2条(秘密情報等の取り扱い)、第3条(返還義務等)、第4条(損害賠償等)、第5条(有効期限)、第6条(協議事項)、第7条(管轄)で構成されています。もちろん、会社、ケースごとに条文が加わることもあります。何が重要になるかを理解し、締結することが重要になります。
秘密保持契約書の参考例(経済産業省 秘密情報の保護ハンドブック)
秘密保持契約書の参考例として、公表されている経済産業省の秘密情報の保護ハンドブックをご紹介させていただきます。
秘密保持契約書
株式会社(以下「甲」という。)と 株式会社(以下「乙」という。)とは、 について検討するにあたり(以下「本取引」という。)、甲又は乙が相手方に
開示する秘密情報の取扱いについて、以下のとおりの秘密保持契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(秘密情報)
本契約における「秘密情報」とは、甲又は乙が相手方に開示し、かつ開示の際に秘密である旨を明示した技術上又は営業上の情報、本契約の存在及び内容その他一切の情報をいう。ただし、開示を受けた当事者が書面によってその根拠を立証できる場合に限り、以下の情報は秘密情報の対象外とするものとする。
① 開示を受けたときに既に保有していた情報
② 開示を受けた後、秘密保持義務を負うことなく第三者から正当に入手した情報
③ 開示を受けた後、相手方から開示を受けた情報に関係なく独自に取得し、又は創出した情報
④ 開示を受けたときに既に公知であった情報
⑤ 開示を受けた後、自己の責めに帰し得ない事由により公知となった情報
第2条(秘密情報等の取扱い)
1.甲又は乙は、相手方から開示を受けた秘密情報及び秘密情報を含む記録媒体若しくは物件(複写物及び複製物を含む。以下「秘密情報等」という。)の取扱いについて、次の各号に定める事項を遵守するものとする。
① 情報取扱管理者を定め、相手方から開示された秘密情報等を、善良なる管理者としての注意義務をもって厳重に保管、管理する。
② 秘密情報等は、本取引の目的以外には使用しないものとする。
③ 秘密情報等を複製する場合には、本取引の目的の範囲内に限って行うものとし、その複製物は、原本と同等の保管、管理をする。
④ 漏えい、紛失、盗難、盗用等の事態が発生し、又はそのおそれがあることを知った場合は、直ちにその旨を相手方に書面をもって通知する。
⑤ 秘密情報の管理について、取扱責任者を定め、書面をもって取扱責任者の氏名及び連絡先を相手方に通知する。
2.甲又は乙は、次項に定める場合を除き、秘密情報等を第三者に開示する場合には、書面により相手方の事前承諾を得なければならない。この場合、甲又は乙は、当該第三者との間で本契約書と同等の義務を負わせ、これを遵守させる義務を負うものとする。
3.甲又は乙は、法令に基づき秘密情報等の開示が義務づけられた場合には、事前に相手方に通知し、開示につき可能な限り相手方の指示に従うものとする。
第3条(返還義務等)
1.本契約に基づき相手方から開示を受けた秘密情報を含む記録媒体、物件及びその複製物(以下「記録媒体等」という。)は、不要となった場合又は相手方の請求がある場合には、直ちに相手方に返還するものとする。
2.前項に定める場合において、秘密情報が自己の記録媒体等に含まれているときは、当該秘密情報を消去するとともに、消去した旨(自己の記録媒体等に秘密情報が含まれていないときは、その旨)を相手方に書面にて報告するものとする。
第4条(損害賠償等)
甲若しくは乙、甲若しくは乙の従業員若しくは元従業員又は第二条第二項の第三者が相手方の秘密情報等を開示するなど本契約の条項に違反した場合には、甲又は乙は、相手方が必要と認める措置を直ちに講ずるとともに、相手方に生じた損害を賠償しなければならない。
第5条(有効期限)
本契約の有効期限は、本契約の締結日から起算し、満○年間とする。期間満了後の○ヵ月前までに甲又は乙のいずれからも相手方に対する書面の通知がなければ、本契約は同一条件でさらに○年間継続するものとし、以後も同様とする。
第6条(協議事項)
本契約に定めのない事項について又は本契約に疑義が生じた場合は、協議の上解決する。
第7条(管轄)
本契約に関する紛争については○○地方(簡易)裁判所を第一審の専属管轄裁判所とする。
本契約締結の証として、本書を二通作成し、両者署名又は記名捺印の上、各自一通を保有する。
令和 年 月 日
(甲)
(乙)
参考:経済産業省の秘密情報の保護ハンドブック(P163~P164) 第4 業務提携の検討における秘密保持契約書の例
第1条のポイント
M&Aにおいては、財務・人事・不動産等幅広い情報開示が必要となるため、あえて情報を特定せずに一切の情報等という表現を使うことが多いです。
第2条のポイント
相手方が複数のグループ会社を持っている場合には、グループ会社やその会社の役員・従業員にも同じ効力を与える条文を追加することをお勧めします。
第3条のポイント
M&Aは開示する情報が多くなるため、承諾を得たものに限り破棄することで返還したとみなすという条文を入れておくと返還作業が効率化します。
第5条のポイント
自動更新条項は設けずに有効期間を1~2年程度として、契約解除後も2~3年間程度効力を有効とする条文を入れることをお勧めします。
第7条のポイント
相手方の本社所在地が異なる場合には、『本契約に関し、甲乙間で紛争が生じた場合には、被告の本社所在地を管轄する地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。』とすることが一般的です。
室長コメント
まずは秘密保持契約書は締結すると覚えていてください!
さてさて、けんぞう社長とのぶこ専務が心配する必要資料とはどんなものなのでしょうか。